湯船一杯の海の中で
僕の体は溶けていく
次第に形は胎芽に戻り
いずれ跡形もなく消え失せる
ああ、君よ、大切な君よ
そしたら栓を抜いておくれ
底に渦巻く想いを見届けながら
僕の物だった未練がましい魂が
詰まらぬように掻き混ぜて欲しい
それから君は体を清めるのだ
もう僕の含まれない新しき海で
無邪気な裸を丁寧になぞりながらも
宇宙に燃える恒星を胸に宿したら
白く赤く青く時々は黒く
貴方の肌を色めかして生きなさい
海は何処へ帰るのか
僕は今も知らないままだ
だから含有された小さな海の
行き着く在処に夢を見ている
「浴槽の海」