天気雨が冷やす川沿いを
顎から上が無い僕が歩く
雨水は歯茎のお椀に溜まって
溢れた涎は道を薄紅に染める
人々は其れにすら興味を持たない
僕は最早前を見ることも禁じられた
脳みそが無いから悲しくは無いが
ただ時折吹き出す血液に飢えている
「ああ、これが僕の最後の感情だ」
喉は辛うじて開いている
声を上げる事だけならできる
誰も呼べずとも空気は震わせられる
呟きたい言葉は沢山あったが
今はもう発音に頼ることも無い
やっと海の砂浜に辿り着いたら
貴方の生首が波打ち際で眠っている
僕は僕の未練たらしい顎を撫でて
その癒着に邪魔な部位のプライドに
友人や家族、ましてや恋人とさえ
一つに嵌ることは奇跡なのだと知った