薔薇を一輪挿していた
日のよく当たる窓辺の傍に
話しかけても無口な頬や
我が儘に香る魅惑の涙や
触れると傷つく高貴な躰が
何より僕には愛おしかった
貴方に何が許されるのか
貴方は何を喜ぶだろう
散りゆく花びらを見るたびに
僕は貴方と死にたいと願う
ある夜、僕は芸術に陶酔し
美神の唇である貴方に屈服する
それから花瓶に特別な恋杯を
情感を分かつ為にと注いだのだ
されば今ではあの美しき肌も
その健常で真っ直ぐな背筋も
あの気丈で気の強い命さえも
一瞥もせずに枯れ果てている
だから窓辺のこの遺書こそが
彼女に宛てた最後の恋文
「美神の薔薇」