僕は殻に篭る蛹です。

卑しくも、弱さや薄暗さを隠匿することが許された蛹です。殻の中に蠢く自意識や欲望や嫌悪感を隠してジッと笑顔を浮かべます。秘する事に始終し、しかし隣人を愛する余裕もなく、下卑た偏見で世の中を知ったつもりになります。だけどいつかこの悍ましい殻を破る時は、全ての感情を消化しきって美しい化け物になるのです。

今はまだ幾重もの殻の層に守られています。一日の大半は毛布の中で過ごします。嘘を摂取して現状への苦悩を和らげます。自慰で消費したティッシュは蜜柑の皮を包みます。精神科の診断を盾に沢山の錠剤を飲み干し、尊大な自己防衛を働かせています。ほんの僅かな自尊心で自らの魂を傷つけます。観客不在の創作で生きている予感を誤認し続けています。そしてその全てを僕が殻を破る為の下拵えだと信じています。

殻は同時に僕を縛り付ける檻でもあります。僕の自由性を阻む足枷です。温くなった感性の辻褄を合わせる為の体裁です。剥き出しにするべき見解を封じ込める深淵です。他人の期待や見込みを裏切っている僕の牢獄です。人々の不愉快を成立させないように生きる為の防衛線です。惨めで恥ずかしい自分と向き合わせ自己破壊へと導く地獄です。

最近は蛹は永遠に蛹のままなのではないかと考える日も増えました。このまま時間と共に僕は手に在るものを全て失うのではないかと。枯れ果てた残滓となり、元々何もなかったかのように掻き消えるのではないかと。殻を破った後に待つ希望は虚妄で、最後は後悔と欺瞞の暗がりに辿り着くのではないかと。この蛹という状態こそが僕は何者にも選ばれなかった証なのではないかと。僕は失敗作なのではないかと。

何もかもが未知数です。それも、残酷な程の未知数です。

だから今はせめて、胎児のように闘います。全てを恐れて、全てを期待し、全てを苦しみ、全てを考えて、僕の心の一番大切な部分は闘い続けます。精神の薄さに怯えながらも、今ある全ての可能性の結実を思い描きます。殻の背中を突き破り、羽を広げる時が来ることを丁寧に祈ります。生きていることを否定できない程の存在定理を掴み取る勇気が失われないように努力をします。何より、蛹である自分さえ愛せる心の強さを願います。

僕は殻に篭る蛹です。

しかし月光に照らされた殻は、時に玉虫色に光るのです。

 

 

「蛹は鳴いた」