平和を賛美する爆撃で
脳髄が損傷した男は
天啓された悪の真理で
心に文学的な炎を燃やす
野良犬に自らの肉を喰わせ
行きずりの女を孕ませる
親の葬儀に怒りをおぼえ
他人の思想の為に人を騙す
傷だらけの猫の写真を撮り
許された不貞を愛と呼ぶ
ドン・ジュアンを尊敬し
賢治を卑怯者だと罵る
命の悪意を為すべき脳は
丹念に遠回りを繰り返し
本質に眠る悪魔の声を
満足そうに聞き惚れている
滅亡の朝、男は天を仰いだ
黒い生血がその胸を鳴らす
「悪なる人」