僕に薬を下さい
胎児になれる薬を
光を失う薬を
音が遠ざかる薬を
肌が燃え盛る薬を
胃の中で溶けて
体の隅々を駆け巡る
確かで間違わない薬を
僕を裏切らない薬を
水に溶かしソーダ水となり
はじけた泡の数の分だけ
記憶が掻き消える薬を
この記録する器官たちが
全て嘘になる薬を
知りたくない事があるのです
沢山沢山あるのです
感情なんて欲しくないのに
懐かしいものが僕を追い詰める
だから薬を下さい
その薬さえあれば
いつでも懐に忍ばせるだけで
これからもきっと悲しめるから
これからもきっと生きていけるから
「健忘する薬剤」